住職のつぼやき[管理用]

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「私はだまされへんで!」

今日は、未だ忘れられぬ老人ホームでの『出前・思い出ばなし』をしたいと思います。
 その日は月一度の施設での『法話会』の日でした。
 僕は会の準備をしていましたら、奥のエレベーターの戸がスウッと開き、何やら《怒り心頭》の老婦人がお一人、こちらにやって来られました。
そして開口一番、「あんたが、ここに毎月来られるお坊さんですか?」と尋ねられるので、僕は「はい」と答えました。
すると、「ふーん、でも私はだまされまへんで!私はあんたなど知らん!」と憎々しげに言われるのです。
 その方と、顔見知りの僕は、「なんで、そんな事言わはるの?・・何かあったんですか?どうして怒ってはるの?」と聞くと、それに対しては知らん振りで、突然、「私の財布がない!」と叫ばれ、僕のカバンの中を探し始められました。
 その声にあわてて飛んで来られた職員さんは、「それは何某さんのカバンと違うでしょう。」と窘められたのですが、又「私はだまされへんで!」と言いながら、あちらに行ってしまわれました。職員さんは、僕に「最近、何某さんは特に認知症がひどくなられて・・すみませんでした」と言われました。
 結局、何が原因で怒っておられたかはわからず終い。・・・それでも、この日は最後まで『法話会』に参加され、最後は上機嫌でお部屋に帰って行かれました。
 僕は、この方の後ろ姿を見送りながら思いました。「・・誰かが言った、『年寄り笑うな行く道じゃ』と・・。もちろん、僕に笑う気持ちなどないが、この虚しさは寂しさは何なんだろうか・・」と。
 そう、きっと僕もこの道を行くのでしょう。
 そして言うでしょう・・。誰かが僕に「あんた昔、お寺の出前やってたそうやなぁ・・」と、そしたら僕はきっと叫ぶでしょう。「お寺が出前なんかできるわけないやろ!私はだまされへんで!」と・・・。
 今年も後、ひと月・・。又ひとつ年を取りますね。最近、年を取るのが少し怖くなってきている僕でありました。

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