住職のつぼやき[管理用]

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紙芝居:「意地悪(いじわる)くん」 (後編)

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 次の日、いじわる君は、隣町を歩いていると、
 行く手の大きな屋敷の門の前に、人だかりがしていました。
 そしてその真ん中で、みすぼらしい身なりの女性が、うずくまってシクシク泣いていました。
 「いったい、どうしたのですか?」と、いじわる君は側の太ったおじさんに聞いてみると、
 するとおじさんは、「なぁに、たいしたことではないさ。あの女は、このお屋敷の女中なんだよ。それで、お屋敷の旦那さんにお金を借りたんだが、貧乏で返せなくて・・、それで追い出されて泣いているのさ。」と、言いました。
 いじわる君はそれを聞いて、「そうですか。気の毒に。・・それで、あの女性の名前は何というのですか?」と尋ねると、
 「あの女の名を聞いて、どうするつもりなんだい?・・でも、まぁ教えてやろう。 実はあの女の名は〔金持ちよ〕っていうんだよ。けっさくだろう!わぁははははっ」と笑いながら、おじさんは答えました。
 いじわる君は又、びっくり。
「これは、いよいよ不思議だ。〔金持ちよ〕さんなのに、貧乏で追い出されるなんて!」
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 その夜、いじわる君は、柔らかい草の上に横になって、夜がふけるまで考えました。
 「〔元気〕君が早死にして、〔金持ちよ〕さんなのに貧乏。・・そして僕は、〔意地悪夫〕。
 あの二人は、とても良い名前を付けて貰ったのに、気の毒な人たちだった。
 ・・でも、僕はどうだろう。
 みんな面白がって、僕をからかうけれど、僕は「意地悪」なんかしたことがない。
 名前のことは、そんな気にする必要はないかもしれないな・・。
 とにかく、明日は、約束の三日目だ。もう一日、名前探しを続けてみよう。」と、思いながら休みました。
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 その最後の日、いじわる君は別の町に向かって、歩きはじめました。
 すると、「もしもし、坊や、町にはどう行けば良いのか、教えてくれんかのぉ?」と一人のおじいさんが、尋ねてきました。
 「はい、この道をまっすぐに行けば良いのですよ。ほら、向こうに屋根がたくさん見えるでしょう。・・おじいさんは、遠くから来られたのですか?」と、いじわる君が言うと、
 「うんにゃ、わしは、その町に住むものなんじゃが、すぐに道に迷ってのぉ~。もう、毎日毎日、迷子なんじゃよ。ふぉふぉふぉ」と笑いました。
 いじわる君はそれを聞いて、「おじいさん、あのう、お名前をお聞きしてもよろしいですか?」と尋ねました。 
 すると、おじいさんは、「わしの名は、〔迷わぬべぇ〕というのじゃ。ふぉふぉふぉ」と笑いながら答えました。
 いじわる君は、それを聞いて「うーーん」と唸り、座り込んでしまいました。 
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 「僕は、《名前さがし》の旅をして来たけれど、名前ばかり良くても、何にもならないようだ。
 もう、これ以上《名前さがし》は止めにして、学校に早く帰って勉強しよう。 
 良い名前だけが、僕を幸せにしてくれるわけじゃないんだ!・・だから、どんな名前だっていいじゃないかっ!
 僕はもと通り《意地悪夫》で良いんだ!
 ・・そうだ、そう呼ばれる度に、『意地悪になってはいけない!』と、自分自身にそう言い聞かせよう!」
 いじわる君は、そう決心して、明るい気持ちで学校に帰ることにしました。
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 学校では先生が待っておられ、「どうだね、良い名前は見つかったかね?」と、尋ねられました。
 いじわる君は、「先生、良い名前は多くありました。・・しかし、その人たちは名前とは逆に不幸でした。
・・それで、僕はもう名前のことは気にしない事にしました。そして勉強に励むことに決めました。」と、明るく答えました。
 それを聞いて、いかにも嬉しそうに先生は、「君は本当に良いことに気がついた。・・その通りなんだよ。(モンキッキーとか、)良い名前に変えるより、良い人になろうと努めることが大切なことなんだよ。さぁ、益々これから勉強に身を入れて、頑張りなさいよ!」とおっしゃいました。

 『名前探しの旅』を終えたのち、いじわる君は、熱心に勉強に身を入れ始めました。
 そんな姿を見た友達たちは、やがて誰一人、その名前でからかう者はいなくなったということです。 おしまい  『依名得運本生物語』より

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