〔おかん〕が極楽に来て、二十年が経った。
あいかわらず、極楽は平和な時間が流れていた。
〔おかん〕は、又フッと、横に居る夫に言ってしまった。
「お前さま、いったいいつまで、ここに居るんじゃろう?・・いつになったら、別の世界に往けるんじゃろう?」と。
それを聞いて、夫〔宗兵衛〕はムッとして、
「くどい!いつまでも、いつまでもじゃ!」と答えた。
叱られたと思った〔おかん〕は、しょげて、そのまま黙ってしまった。
・・が、ふと〔おかん〕の脳裏には、一つの疑問が浮かび、思い切って夫に聞いてみた。
「ねぇお前さま、・・『地獄』ってどんな所なんでしょうか?」と。
その時初めて、〔宗兵衛〕の顔の表情が、ピクピクッと動いた。 つづく
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紙芝居:「極楽のはなし」 その4
紙芝居:「極楽のはなし」 その3
・・やがて、〔おかん〕はしゃべる話題が無くなると、初めて回りの世界を見るゆとりができた。
空からは美しい音色が聞こえ、暑さ寒さも感じない・・。
百八つの煩悩も消え、〔おかん〕の心は澄み切っていた。
やがて、五年の歳月が流れようとしていた。
相変わらず『極楽』は、同じような毎日であった。
苦しみも無く、悲しみも無く、風も吹かず雨も降らなかった。
二人はずっと、仏様の前でお説教を聴き続けた。
ふと、〔おかん〕は横に居る夫に聞いてみた。
「お前さま、いったいいつまでここに居るんじゃろう?」と。
すると〔宗兵衛〕は、「いつまでも、いつまでもじゃ・・。それは、仏さまがお決めになる事じゃ。」と答えた。
そして、又五年が過ぎようとしていた。
あいかわらず、極楽では平和な時間が流れていた。
〔おかん〕は、極楽での生活を心から楽しんでいたが、又、ふと隣に居る夫に尋ねてみた。
「お前さま、いったいいつまでここに居るのじゃろう?」と。
すると〔宗兵衛〕は、「いつまでも、いつまでもじゃ」と答えた。
〔おかん〕はそれを聞いて、「そんな、いつまでもって事ないと思いますよ・・。きっといつか、違う世界に往けると思いますよ」と反論した。
〔宗兵衛〕は苦笑して、「極楽より、他に往く処があるかい!」と言ったまま、黙ってしまった。
それを聞いて〔おかん〕は、『そういえば、お寺さんは「極楽以上の世界はない!」と、いつも言っておられたなぁ・・』と思った。
そして、又十年が経とうとしていた。
紙芝居:「極楽のはなし」 その2

〔おかん〕は、きっとこの門は「極楽」への入り口だと思い、急いで門の前まで進んだ。
すると不思議なことに、その門はギギッーと音をたてて、八の字に開いた。 
なんと、その門の中の有様は、〔お経〕様に書かれてあった通りであった。
目の前に広がる光景は〔七つの宝の池〕、〔金銀でできた楼閣〕、〔宝石でできた宝の木〕、空には色あでやかな鳥が舞い、天女が飛び、・・それらを見た〔おかん〕は、ただ「あぁっ、ありがたいこっちゃ。ナムアミダブ、ナムアミダブ・・。」と感激の言葉しか出なかった。
すると、その声に応じたかのように突然・・、 
アミダ如来様が〔おかん〕の前まで来られ、その手を取って、十年前に死んだ夫〔宗兵衛〕の座る《ハスの台》まで導いた。
「あぁっ、お前さまー。」
おかんは、絶えて久しい夫の姿を見ると、「わっ」と、嬉し泣きに縋りついた。
〔おかん〕は落ち着くと、夫に死に別れてからの話を一部始終しゃべった。
息子が頑張って、店を大きくしたこと。
嫁が、自分を大切にしてくれたこと。
孫が、可愛くて可愛くて、たまらなかったこと。
おかんは、シャバ世界であった事を、何日も何日も夫にしゃべった。 つづく
紙芝居:「極楽のはなし」 その1
昔むかしのお話・・。
京の都に大きな〔染物問屋〕が一件あった。
そこの主を「近江屋:宗兵衛」といい、妻を「おかん」といった。
二人は共に信心深く、人に親切であった。
そんな夫、宗兵衛も十年ほど前に大往生で亡くなり、今、妻のおかんも臨終の時を向かえようとしていた。
「おバァちゃん、死なないで~」と、孫娘は枕元で叫んだ。
その声に薄目を開けた〔おかん〕は、
「おぅおぅ、ありがとなぁ~。・・皆にこのように囲まれて、往生できるとは、ほんに私は幸せもんじゃ・・。
実は、私はあちらの世界に往くのが楽しみなんよ。
先に死んだおじいさんにも、逢えるしのぉ・・。
ほんじゃ、みんな、おさらばじゃ。南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏・・。」
それだけ言うと、〔おかん〕の意識は段々と薄れていった。
気がつけば、おかんは暗闇の道をまっすぐ歩いていた。
足元には、ほのかな灯りが瞬き、往く道を照らした。
おかんは、この道が〔冥土〕への道であることに気がついた。
しかし、はたしてこの道の終点が、〔極楽〕なのか〔地獄〕なのか、それが少し気がかりではあった。
・・・が、アミダ如来様の救いを信じきっていた〔おかん〕は、ただ口に「南無阿弥陀仏、ナムアミダブツ・・」と、繰り返し繰り返し、称えて進んだのであった。
こうして、おかんは念仏を称えている間に、いつの間にか〔三途の川〕も〔死出の山〕も、一足飛びに飛び越えてしまっていたのであった。
どれぐらい歩いたであろう・・。
突然、おかんの目の前に大きな門が現れた。 つづく
紙芝居:「極楽のはなし」 プロローグ
・・「極楽」って、どんな所だろうか?
字の如く、「楽」の「極まった」世界なのだろうか?
『お経』によると、食べる不自由もなく、着る不自由もなく、寒さや暑さで苦しむこともなく、光り輝く建造物、薄着の美しい天女、行きたい所へはすぐに行ける、話たいと思えば誰とでもすぐにコミニケーションが取れる・・。
・・僕は思う。 それって、現代のことやん。
エアコン、携帯電話、パソコン、自家用車、24時間開いてるコンビ二。
まさに、極楽は「今」ここにある。
ニッポンの歴史が始まって、今日ほど、「極楽」のイメージに近づけた時代が、かつてあったであろうか?!
・・で、あるはずなのに、町に行けば皆せかせか急ぎ、笑顔は少なく、うつ病は増え、人を騙したり、いじめたり、そして、スピードの出し過ぎによる信じられない列車事故。車によるひき逃げ、ひったくり、困っていても他人には知らんふり・・、エトセトラ。
はたして、今は「極楽」では、ないのか?
『物質』の豊かさが、幸せをもたらさないと云うのなら、『極楽』が、お経で著された意味はどこにあるのか?
・・幸せの種子は『物』ではなく、「心」の持ち方によって、地獄にも極楽にもなる。・・と、考えた時、初めてこの両極端な世界を説かれた、お釈迦様の本当の主旨が、少し解ったような気がする。
前書きが長くなってしまったが・・、そんな事を考えながら、この『極楽のはなし』という紙芝居を作った。
少し見方を変えてしまうと、この元にした話(菊地寛原作『極楽』)は「地獄のはなし」にもなってしまうという、きわどさもある。 だから、そこは結末を少しアレンジした。(どちらかというと、原作通りの方が僕は好きかも。しかし、それは僕が宗教で、ご飯を食べている理由(限界)から出来なかった)
まぁ、ごちゃごちゃとプロローグを書き連ねたが、前回の『地獄のはなし』とリンクさせながら、読んで頂けると幸いである。
それでは、はじまり、はじまりー。 つづく・・っかい?!
紙芝居:「地獄のはなし」 その6 (最終回)

〔子供の地獄〕と言っても、正確に言えば、そこはまだ〔地獄界〕ではない。
お前が通って来た〔三途の川〕の辺にある世界なのじゃ。
そこは《賽(さい)の河原》といってな、幼くして(自ら命を絶ってしもうた者たちの)居る世界じゃ。
ここでは、皆が〔小石〕を積み上げて、塔を築こうとする。
それは、高い塔が出来たら、人の世に生まれ変わる事ができるからじゃ。・・皆、後悔しているんじゃな。・・やり直したいんじゃ。
だから、皆、一生懸命に塔を築こうとする。
しかし、もうちょっとで完成すると云う時、鬼が現れてな、その塔を壊してしまうんじゃ。・・だから、やはりここも地獄じゃな。
それを聞いていた〔お地蔵さま〕は、閻魔大王には聞こえないような小さい声で、悪兵衛に言った。「・・心配するな、悪兵衛。あの子たちは、私が必ず救出するから。私に任せておけ・・」と。
悪兵衛は、それを聞いてちょっと安心した。
そして、子供たちに向かって呟いた。
「子供たちよ、いかなる理由があろうと、命を粗末にしてはいかんかったんじゃぞ。・・頑張って塔を築けよ!そして後は、お地蔵さまにお任せするんじゃ!」と。
悪兵衛の目は涙で一杯になった。
そして、目の前が見えなくなってしまった。
悪兵衛の意識は、再び朦朧とした。
気がつくと・・、
悪兵衛は、布団の中に居た。
「あぁ、わしは甦った。・・お地蔵さまのおかげじゃ。」と、呟き合掌した。
そして、驚く手代たちに向かって、悪兵衛は言った。
「・・わしは今、地獄へ往って来た。・・あんな所、二度と往きとうない。わしは極楽浄土へ往きたい!・・だから、わしはこれから〔善人〕になる!。これからはもう、決して他の人を悲しませるようなことはせんぞ!」と・・。 おしまい 『極楽のはなし』へ、リンク・・。
紙芝居:「地獄のはなし」 その5

さぁ、「地獄詣で」の旅を続けようかのぉ・・。
地下四階が、《叫喚地獄》。
これまでの罪に加えて、酒を飲み、人を傷つけたものが落ちる地獄じゃ。
ここでは、酒の代わりに、熱でドロドロに溶けた〔銅〕が呑まされるんじゃ。
そして地下五階が、《大叫喚地獄》。
嘘をついたり、約束を破ったものが落ちる地獄じゃ。
ここでは、鬼が〔鉄バサミ〕で、その嘘をついた者の舌を引き抜くのじゃ。
その下が、《焦熱地獄》。
ここは、これまでの罪に加え、自分勝手な考えや、振る舞いをし、人を困らせた者が落ちる地獄なのじゃ。
ここでは、頭から肛門まで、鉄串で突き通され、地獄の炎をあぶられるのじゃ。
地下七階は、《大焦熱地獄》。
ここは、これまでの罪に加え、清らかに生きようとしてる者を、辱めた者が落ちる地獄じゃ。
ここでは、炎でできた刀で、皮を剥がされるんじゃ。
そして、最下層が、《無間地獄》。別名《阿鼻地獄》とも云う。
悪という悪、すべて犯したものが落ちる地獄じゃ。
ここは、巨大な動物、蛇、鬼、毒虫などが、うじゃうじゃ居て、絶え間なく、噛み付かれたり、刺されたりするのじゃ。
どうじゃ、悪兵衛。
・・地獄で恐ろしいのはな、死ぬ事が出来ないという事じゃ。
たとえ、切り刻まれても、フゥ~ッと、涼しい風が吹くと、又元通りになってしまう。
そして、その犯した罪が消えるまで、何十年も何百年も、繰り返し繰り返し、その刑罰を受けねばならないのじゃ。
・・そして、もう一つ、地獄には別の世界があってな、そこは〔子供たちの地獄〕なのじゃ。
それを聞いて、「えっ!」と、悪兵衛は驚いた。 次回、最終回。つづく
紙芝居:「地獄のはなし」 その4

閻魔大王は、じっと考えた後、こう言われた。
「・・よろしい。今度だけは見逃してやろう。だが、行いを改めねば、この次こそ『地獄』だぞ!
・・まぁ、せっかくココまで来たんじゃ。悪兵衛、地獄がどんな所か見せてやろう! そして〔人の世〕に還り、皆に話してやるが良い。悪い行いを重ねれば、どのような目に合うかということを!」
そして閻魔大王が、手を挙げたとたん、悪兵衛の目の前に、映画のスクリーンのように〔地獄の世界〕が広がったのであった。
閻魔大王「悪兵衛、〔地獄〕は全部で《八つ》の世界に分かれておる。
罪が重い者ほど、地下深く落ちるのじゃ。
その地下一階が、《等活地獄》じゃ。
ここは、人を殺した者はもちろん、面白半分で生き物の命を奪った者が落ちる地獄じゃ。
ここでは、罪の報いとして、鬼達に金棒で叩かれる。
又、周りがすべて《敵》に見えてしまい、喧嘩が耐えない世界なのじゃ。
それでは、下に参りま~す。いかん、いかん、このブログ作者のアホが移ってしもうた。・・下へゆくぞ!
その下が、《黒縄(こくじょう)地獄》。
ここは、面白半分に生き物を殺した上に、人の物を盗んだ者が落ちる地獄じゃ!
その罪によって、鬼達にノコギリで、切り刻まれるんじゃ!
そして、地下三階が、《衆合地獄》。
淫らな行いをして、人を悲しませた者が落ちる地獄じゃ。
ここでは、カミソリの刃の山を、登ったり、降りたりしなければならんのじゃ。
まだまだあるが、つづくじゃ」
紙芝居:「地獄のはなし」 その3
裸にされた悪兵衛は、それから広い荒野を歩き、大きな宮殿に着いた。
そこは〔閻魔(えんま)大王〕の宮殿であった。
閻魔大王は、あの世の裁判官の一人で、人の生前の善・悪を裁く仕事をしていた。
悪兵衛は、恐る恐る〔閻魔大王〕の前まで進み、小声で言った。
「閻魔さま、私は何ひとつ、悪いことはしておりましぇん」と。
すると、「この嘘つきめが!! この〔浄玻璃(じょうばり)〕の鏡を見ろ!」と、閻魔大王はカミナリのような大きな声で怒り、大きな鏡を悪兵衛の前に出した。
そこには、悪兵衛の生前の〔悪い行い〕が、みんな映し出されていた。
悪兵衛は首をうな垂れて「あぁ、あの時、あんな事をしなければ良かった・・」と呟いた。
「悪兵衛、お前は地獄往きじゃ!」と、閻魔大王の判決が下ったその時・・、
「閻魔さま、待って下さい」と、優しい声が聞こえた。
そして、そこには〔地蔵菩薩〕が立っておられた。
「あぁ、お地蔵さま、さま、さま、助けてください!ヘルプミー」と、悪兵衛は〔地蔵菩薩〕の衣に取りすがった。
しかし〔地蔵菩薩〕は、
「私はお前を助けることはできません。私の仕事は、苦しむ者と共に、一緒に苦しむ事。そして、その苦しみを和らげてあげる事。それだけなのです。・・お前を救えるのは、これまでにしてきた、お前の行いだけです。 確かにお前は悪いことばかりしてきました。・・しかし、お前は道端に立つ私に手を合わせてくれましたね。そして、一度だけ、苦しむ者を命がけで助けた事がありましたね。・・今、私がここに居るのも、その事があったからなのですよ。・・又、お前は今、心から自分の行いを反省しています。・・だから、私から閻魔さまに頼んでみましょう。
閻魔さま、この悪兵衛を、もう一度元の〔人間世界〕に、戻してやってはいただけませんか?・・こんどは、きっと善い行いを積むでしょう。」
それを聞いて、閻魔大王は、又じっと〔浄玻璃〕の鏡をご覧になり、そして言った。 つづく
紙芝居:「地獄のはなし」 その2

やがて火車は、薄明るい世界に出た。
車は止まり、鬼は悪兵衛を外へ引っ張り出して言った。
「さぁ、ここからは独りでゆくのじゃ。あの岩山を越えるんじゃ!」と。
悪兵衛は、しかたなく岩山を登り始めた。
しかし、岩山は尖っており、一歩進むごとに足の裏が裂け血が噴き出した。その為、痛みでなかなか登ることができなかった。
それを見て、鬼は「お前は生前、悪いことばかりしてきた。だから今、その報いを受けておるんじゃ!」と笑った。
悪兵衛は「・・あぁ、生きてる間に、善い事をしておけば良かったなぁ・・」と呟いた。
ようやく、岩山を越えた悪兵衛の目の前に、今度は大きな荒れ狂う河が現れた。
そこが、いわゆる《三途(さんず)の川》であった。
そして、その川辺には又、違う鬼達が居て、悪兵衛に「さぁ、悪いことをした報いだ。泳いで渡れ!」とムチを振るって言った。
悪兵衛は「・・あぁ、生きてる間に、善い事をしておけば良かったのぉ・・」と呟き、その河に飛び込み、水を飲み溺れながらも、必死で泳いだ。
それを見て鬼達は「生きている間に善い事をしておけば、浅瀬か、黄金の橋を渡れたものを・・」と言った。
《三途の川》をようやく渡り終えた悪兵衛に、今度は川辺で、大きな鬼の姿をした〔奪衣婆(だつえば)〕と云うお婆と、〔懸衣翁(けんえおう)〕と云うお爺が待っていた。
お婆は「さぁ、ここからは裸になってゆくのじゃ!」と、悪兵衛の着物を無理やり剥ぎ取り、《衣領樹(えりょうじゅ)》という木に登っているお爺に、その着物を渡した。
お爺が、その着物を木の枝に引っ掛けると、不思議なことに、象の鼻のように、その着物は大きく揺れた。
お爺はそれを見て、「これを見ろ!この枝はな、悪い事を一杯した奴の着物は、大きく揺らすのじゃ!・・はっはっはっ、お前は間違いなく《地獄》行きじゃのぉ・・」と言って笑った。
悪兵衛は「・・あぁ、生きてる間に、善い事をしとけば良かったなぁ・・」と三度呟いた。 つづく

