昔むかしのお話・・。
京の都に大きな〔染物問屋〕が一件あった。
そこの主を「近江屋:宗兵衛」といい、妻を「おかん」といった。
二人は共に信心深く、人に親切であった。
そんな夫、宗兵衛も十年ほど前に大往生で亡くなり、今、妻のおかんも臨終の時を向かえようとしていた。
「おバァちゃん、死なないで~」と、孫娘は枕元で叫んだ。
その声に薄目を開けた〔おかん〕は、
「おぅおぅ、ありがとなぁ~。・・皆にこのように囲まれて、往生できるとは、ほんに私は幸せもんじゃ・・。
実は、私はあちらの世界に往くのが楽しみなんよ。
先に死んだおじいさんにも、逢えるしのぉ・・。
ほんじゃ、みんな、おさらばじゃ。南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏・・。」
それだけ言うと、〔おかん〕の意識は段々と薄れていった。
気がつけば、おかんは暗闇の道をまっすぐ歩いていた。
足元には、ほのかな灯りが瞬き、往く道を照らした。
おかんは、この道が〔冥土〕への道であることに気がついた。
しかし、はたしてこの道の終点が、〔極楽〕なのか〔地獄〕なのか、それが少し気がかりではあった。
・・・が、アミダ如来様の救いを信じきっていた〔おかん〕は、ただ口に「南無阿弥陀仏、ナムアミダブツ・・」と、繰り返し繰り返し、称えて進んだのであった。
こうして、おかんは念仏を称えている間に、いつの間にか〔三途の川〕も〔死出の山〕も、一足飛びに飛び越えてしまっていたのであった。
どれぐらい歩いたであろう・・。
突然、おかんの目の前に大きな門が現れた。 つづく
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