・・やがて、〔おかん〕はしゃべる話題が無くなると、初めて回りの世界を見るゆとりができた。
空からは美しい音色が聞こえ、暑さ寒さも感じない・・。
百八つの煩悩も消え、〔おかん〕の心は澄み切っていた。
やがて、五年の歳月が流れようとしていた。
相変わらず『極楽』は、同じような毎日であった。
苦しみも無く、悲しみも無く、風も吹かず雨も降らなかった。
二人はずっと、仏様の前でお説教を聴き続けた。
ふと、〔おかん〕は横に居る夫に聞いてみた。
「お前さま、いったいいつまでここに居るんじゃろう?」と。
すると〔宗兵衛〕は、「いつまでも、いつまでもじゃ・・。それは、仏さまがお決めになる事じゃ。」と答えた。
そして、又五年が過ぎようとしていた。
あいかわらず、極楽では平和な時間が流れていた。
〔おかん〕は、極楽での生活を心から楽しんでいたが、又、ふと隣に居る夫に尋ねてみた。
「お前さま、いったいいつまでここに居るのじゃろう?」と。
すると〔宗兵衛〕は、「いつまでも、いつまでもじゃ」と答えた。
〔おかん〕はそれを聞いて、「そんな、いつまでもって事ないと思いますよ・・。きっといつか、違う世界に往けると思いますよ」と反論した。
〔宗兵衛〕は苦笑して、「極楽より、他に往く処があるかい!」と言ったまま、黙ってしまった。
それを聞いて〔おかん〕は、『そういえば、お寺さんは「極楽以上の世界はない!」と、いつも言っておられたなぁ・・』と思った。
そして、又十年が経とうとしていた。
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