良寛さまと馬之助は、よもやま話に、時間が経つのも忘れて談笑しました。
その様子を由之夫婦が「いつになったら、意見をしてくれるのだろう」と、二人の話題を絶えず、盗み聞きするのですが、さっぱり、良寛さまの口から、それらしき言葉を聞き取ることができません。
・・やがて、二晩が経ちました。
・・ところがです。
三日目の昼過ぎ、良寛さまは「もう、山の庵に帰る。」と、言い出したのです。
それを聞いて、弟夫婦は「なんと、頼み甲斐のない兄さんだ!」と思いましたが、仕方がありません。
みんなで、玄関まで送ることにしました。
良寛さまは、玄関口へ腰をおろして、ワラジのひもに手を触れながら言いました。
(良寛)「馬之助、すまんが、ひもを結んでくれんかのう?・・年を取ると、うつむくのが苦手でのぉ・・。」
馬之助は、上機嫌で「はいっ」と答えて、すぐに土間に降りました。
そして、良寛さまの足元にうずくまって、ひもを結びかけました。
その時です⁉
馬之助の頭に、一滴の水が落ちて来たのです。
「あっ」と、
馬之助はびっくりして、あお向きますと、良寛さまの眼には、涙が一杯たたえられているのです。
馬之助は、急にこころが打ちのめされたような気がしました。
そして、何も言わず、トボトボと帰ってゆく良寛さまの後姿に向って、馬之助は思わず、合掌をしました。
この時、馬之助は何を考えたのでしょう。 つづく
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紙芝居:「良寛さまの涙」(中編)
紙芝居:「良寛さまの涙」(前編)
紙芝居『良寛さまの涙』
昔、越後の国(今の新潟県)に、[良寛(りょうかん)]様という、心の優しいお坊さまが一人で住んでいました。
ある晩、良寛さまの庵に、実弟の[由之(よしゆき)]が訪ねて来ました。
由之は、長男であった良寛さまが出家した為に、家業を継いだ弟です。
(由之)「兄さん、実はご相談があって参りました。」
(良寛)「なんじゃ、改まって・・。」
(由之)「実は、一人息子の[馬之助]のことなのです。
息子の馬之助は、ここ最近、まじめに働かないのです。・・よく家を抜け出しては、夜遊びをします。
朝方帰って来て、私が注意をすると、今度は何日も部屋に閉じこもってしまい、出てきません。
何を考えているやら・・、いったいどうしたものかと・・。
そこで、お願いなのですが・・。」
(由之)「兄さん、この通りです。
どうか、馬之助に説教をしてやって下さい。
馬之助は、兄さんをたいへん尊敬しております。
兄さんが注意をして下されば、馬之助はきっと反省して、真人間に戻るでしょう。」と、由之は頭を下げました。
(良寛)「困ったのぉ・・。」
良寛さまは、本人の心が動かねば、説教など、まったく無駄になる事を知っていました。
しかし、弟の心中を察すると、断ることが出来ませんでした。
そこであくる日、良寛様は生家へと向かいました。
(良寛)「やぁ、馬之助。元気か?遊びに来たぞ。」
何も聞いていない馬之助は、
(馬之助)「おじさん、お久しぶりです。よくいらっしゃいました。さぁ、上がって、上がって・・。」と大はしゃぎ。
(良寛)「では、上がらせてもらいますよ。」 つづく