住職のつぼやき[管理用]

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人の運命

 昨日、お参りに行かせて頂いた家での話。

 僕がそこのお家に入ると、仏壇の前でお婆ちゃんが泣いている。
 涙の訳を尋ねると、「今年は悪い事ばかり続きました。身内を三人も亡くしました。・・お住っさん、人間は生まれながらの決まった〔運命〕というものがあるのでしょうか?」と、云うような事をおっしゃられた。
 その具体的な〔身内の不幸〕のお話を聞かせて頂いた後、僕は《運命》をテーマにした一つの〔中国の昔話〕をすることにした。(それは、昔に何かの本で読んだものなので、具体的に何の本に載っていたのか定かでない。又、何を云わんとした話だったのかも覚えていない。間違ってその話の内容を解釈している可能性は大なのだが、思い出したまましゃべった)
 それはこんな話・・。

「昔、中国に、医者になろうと勉強する一人の青年がいた。
 そこへ一人の仙人が尋ねて来た。
 仙人は青年に、『お前は、医者になる運命ではない。《科挙》の試験を受けなさい。必ず合格するから。そして政治家になりなさい。きっと大成する。そして、○才で美しい才女と結婚する。
 さらに○才で子供が出来て、○才で大臣になり、○才で病気になり、○才で死ぬ。・・お前はそのような《運命》なのだ。』と言って去って行った。
 青年はそれを聞き、医者に成るのを止めて〔科挙〕の試験を受ける事にした。
 すると、仙人に言われた通り合格した。そしてみるみるうちに出世し、仙人に言われた通り、○才で結婚し、○才で子供が出来て、○才で大臣になった。
 しかし、この男は〔無気力〕になった。
『何もかも決まっているのなら、何もしなくても良いではないか』といった心境になったからであった。
 無気力のままこの男は、ある日、お寺にお参りに行った。
 その祈りの姿を見て、寺の偉い導師が男に尋ねた。
『あなたは一見、悟りを開いているように見えますが、どのようにして、そのような心境になられたのですか?』と。
 男は、仙人に言われた通りになった『運命』の話を、事細かく導師に話した。
 すると導師は、『ちぇっ、つまらん男の話を聞いてしまった。ばかばかしい。さっさと帰れ!』と言って奥に入ってしまった。
 その言葉を聞いて男は「ハッ」とした。
『そうだ、なんと馬鹿げた人生だ。私は仙人に言われた通りの《人生》を歩んでしまった。・・これは運命であったとしても、自分で選んだからこうなったのだ!』と、思った。
 そして、それから男は家を捨て、職を捨てた。そして又、医者になろうと決心し勉強を始めたのだった。
・・それからというもの、仙人に言われた《運命》の予言は、ことごとく外れたという事であった。・・・」
 
 僕は、泣いてたお婆ちゃんにこの話をした。
 しゃべった後、自分でも何を言いたかったのか、わからなくなってしまった。
 「《運命》などない。それは自分で決めているのだ。」と突き放して言っているようで、何の慰めにもなっていない気がした。
 バツの悪い顔をして、すごすご帰ろうとする僕に、このお婆ちゃんは「ちょっと楽になりました。ありがとうございます」と言って下さった。
 僕が慰められた気がしたようなお参りであった。

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