一文無しになった杜子春は、又、西の門の下にぼんやり立っておりました。
「お前は何を考えておるのだ?」
そう声を掛けたのは、いつぞやの不思議な老人でした。
「私は今夜、寝る所もないので、どうしたものかと考えているのです」と、杜子春。
「それは可哀想だな。・・では、ワシが良い事を教えてやろう。今、この夕日の中に立ってお前の影が写ったら、胸の所を掘ってみよ。きっと車一杯の黄金が出てくるだろう」と、老人は言いました。
・・・そして、その次の日から、又、杜子春は洛陽一の大金持ちになったのでした。
そして立派な家を買い、贅沢な宴会を毎日開きました。
杜子春が貧乏になると寄り付かなかった人たちも、
「やぁ、杜子春さん、又来たあるよ。私があなたを尊敬する気持ちに、嘘偽りは・・ちょっとだけあるよ(ゼンジー北京風に読む)」
と、お世辞を言いながら、毎日たくさん集まって飲めや歌えの大騒ぎ。
何も働かず、贅沢三昧しほうだいでは、どんなにお金があっても長続きするはずがありません。
三年目の春、又、杜子春は一文無しに落ちぶれて、西の門の下に、ぼんやり立っていました。
その時、三度、不思議な老人は現れて、杜子春に言いました。
「又、お前は寝る所も無いのか?・・それではワシが良い事を教えてやろう。今、この夕日の中に立ってお前の影が写ったら・・・、」
「まっ待って下さい! 私はもうお金は要りません。」
「ほぉ、では贅沢に飽きたか?」
「いいえ、人間に愛想が尽きたのです。 私がお金持ちの時は、誰も彼もチヤホヤしますが、いったん貧乏になると振り向きもしません。もう、お金持ちなんて嫌です!・・それより、私をあなたの弟子にして下さい。あなたは不思議な術が使える仙人でしょう!」
「・・よし、わかった。それではワシについて来るが良い!」
老人はたちまち不思議を表して、杜子春を竹の杖に跨らせ、空高く飛び立ちました。
「杜子春、いかにもワシは峨眉山に棲む〔鉄冠子(テッカンシ)〕という仙人じゃ。間違ってもワシを、魔法使いサリーの爺ちゃんと呼んではいかんぞ。又、爺の宅急便屋と呼んでもならん! おっほん、仙術の修行というのは、並たいていではないのだぞ。はたして、お前にそれができるかどうか? まぁ、それはお前次第だがな・・。」
こうして二人は、蒼い山々が陰るのを遥か下に見ながら、まもなく峨眉山へと舞い降りたのでした。 つづく
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