病床の間で・・。
(唯円)「お師匠さま、お薬をお召しになられませんか?」
(親鸞)「薬はもうよい。・・覚悟は出来ておる。仏さまがお召しになるのだよ。 この世の御用が尽きたのだ。」
(唯円)「・・・。」
(親鸞)「わしは随分長く生きた。・・・90年。 これは人に許されるまれな高齢じゃ。 金さん、銀さんには負けたがのう。」
(唯円)「・・・。」
(親鸞)「・・しかし、この期におよんでも、まだもう少し生きたいと思う。そんな心が残っておる。 浅ましいのう・・。」
(唯円)「お師匠さま、主な『ご門弟』は皆、集まっておられます。」
(親鸞)「おおっ、そうか。」
(唯円)「しかしながら、勘当されました〔善鸞〕さまは、この場に居られません。
・・・ご往生にあたって、どうか一言。『善鸞さまを許す』と申して頂けませんか?
これは、我々皆の願いなのです。」
(親鸞)「わしは、すでに〔善鸞〕を許しておるよ。・・心の中では早うになぁ。」
(唯円)「では、こちらに〔善鸞〕さまをお招きしてもよろしゅうございますか?」
(親鸞)「何っ? 善鸞がここに来ておるのか?」
(唯円)「はい、先ほど、早飛脚でこちらにもうすぐ到着するとの連絡がありました。」
(親鸞)「・・そうか、善鸞に会えるのか。」
(唯円)「到着されましたら、お師匠さまのお口から直接、『許す』と申していただけませんでしょうか?」
(親鸞)「・・わかった。 ・・しかし、善鸞の《信心》が、今はいかがなものか? 尋ねてみねば、ならんのう・・。
あやつは《阿弥陀仏》さまをどう思っているじゃろうか?・・是非、聞いてみたい・・。」
その時、あわてて〔勝信尼〕が部屋の外から声を掛けました。
(勝信尼)「お前さま、唯円さま、善鸞さまが到着されましたー!」
(唯円)「そうかっ、すぐにお部屋に入ってもらうようにお伝えせよ。 お師匠さま、善鸞さまが到着されました!」
つづく。 次回、いよいよ最終回。