(老僧)「お聖人さま、かくかくしかじか・・でございます。
私はお寺の為、仏法の為と思い、唯円を諭しました。
が、言う事を聞きません。・・残念ではごさいますが、お暇(イトマ)を頂きとうございます。」
(親鸞)「・・私が悪いのだよ。許しておくれ。
唯円がしきりに、『恋をしても良いか?』と聞いてきたのに、私は良いとも、悪いとも、言わなかった。
そして『恋をするなら一筋にやれ』とも言ってしまった。
・・私の責任だ。」
(老僧)「お聖人さま、お考え過ぎでございます。
お聖人は、恋する事を禁じなかっただけでございます。
唯円は、自分勝手な解釈で、遊女と隠れ遊びをしていたのですよ。」
(親鸞)「いや、唯円には唯円の何か言い分があるのだろうて・・。あれはまじめな男だからな・・。
お前達、どうか唯円を許し、お寺に残ってくれないか?」
(老僧)「しかしながら、私等はあの唯円とともに、この一つのお寺に棲む事を〔恥〕だと考えております。」
(親鸞)「つまり、唯円は『悪人』だから許せんというのであろう。
(老僧)「・・・・。」
(親鸞)「・・さて、わしはお前達とともに長い歳月を過してきた。
このお寺も、お前たちと一緒に『棟上』をした。
あの時、わしはお前達とともに、五つの『綱領』を定めた。
一番目は何であったかな?」 (注意: 実際にはこのような『綱領』はありません。)
(老僧)「はい。『私たちは悪しき人間である』・・でございました。」
(親鸞)「・・では二番目は?」
(老僧)「はい。『他人の悪を裁かぬ』でございます。」
(親鸞)「この『綱領』で、今回の事も決めておくれ。
ちょうど私たちが、《自分たちの悪を仏様に許して頂いているように》、私たちも、唯円を裁かず、許さねばならない。
お前達は唯円を憎んだ。
その時、お前達はこの『綱領』に背いたのだよ。
・・・許しておやり。
向こうの善悪を裁くな。
そして、ただ『南無阿弥陀仏』と、仏様に許され生かされている事を感謝して、お念仏を申せよ。」
(老僧)「・・しかし、それは随分、難しゅうございます。」
(親鸞)「難しいが、一番尊いことだ。一番賢いことだ。」
(老僧)「・・・。 はい、やはり考えてみれば、我々が間違えておりました。 お聖人のおっしゃる通りでございます。
唯円殿が、どのようにあろうと、私たちは許すのが本当でございました。」
(他の弟子)「はい、私たちも許します。(・・あぁっ、やっとセリフがありました。超うれしいっす。)」
(親鸞)「それを聞いて安心した。
・・そうとも、そうとも。人の心に浄土の面影があるなら、それはまさしく『許した時』の心の姿じゃ。・・○○合衆国大統領にも云わんといかんのぉ。
さぁ、みんな、ここに唯円をつれて来ておくれ。
わしは、二人で唯円と話したい。」
つづく。 いよいよ次回、第二部の最終回。