住職のつぼやき[管理用]

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紙芝居:「出家とその弟子(第一部 悪をせねば生きれぬ人)」(その2)

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お兼(カネ)は戸口まで出て行き、僧たちに言いました。
(お兼)「あのぉ・・、すみません。主人がダメだと申しますので・・。」
 それに対してお弟子は、
(弟子)「・・どこでも良いのです。縁先でもかまいません。」と言いますと、奥からぬっと赤い顔をした主人の左衛門(サエモン)が現れて、
(左衛門)「くどい人だ!帰って下さいな。・・わしは、あんた達が大嫌いなんだ!・・あんた達は〔善い事〕しか、しなさらんのでしょう。・・わしは〔元武士〕だが、今は猟師です。毎日、獣を殺して生きてます。又、生活の為に非情な〔金貸し〕もやって人を泣かしております。・・わしは悪い事しかしませんから、あんた達とは、おのずと肌が合わんのです。」と言いました。
 するとそれを聞いて、
(親鸞)「私は親鸞と申しますが、・・いえいえ、悪い事をしているのは、この私も同じでございます。」と答えられました。
 それを聞き、左衛門は、
(左衛門)「へぇっ、何をおっしゃいますやら。・・うぃーヒィック(酔いとしゃっくりの音)・・あんた達はまったく偉いよ。・・難しいお経を読んで実践されてるだからね。殺生もしなければ、人も怨まない。・・わしなんかぁ、今朝もニワトリを一匹殺しましたよ。又、貧乏人を虐めましたよ。・・結局わしは、毎日悪い事ばかりして生きている。・・しかし、そうしなけりゃ生きていけんのだ。・・あんた達とは違うんだ!」と興奮しながら左衛門は叫んだのでした。
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 見るに見かねた〔お兼〕は、
(お兼)「お坊様、すみません。この人、今日はひどく酔っぱらっておりまして・・。いつもは違うのですが・・。この人、この頃毎日、自分の行いに悩んでおりまして。・・本当に失礼な事を申してすみません。」
 するとお聖人は、
(親鸞)「ご主人、あなたは良いところに気づいていらっしゃる。私とよく似た気持ちを持っていらっしゃる。」と言われました。

(左衛門)「うぃーヒィック(又また酔いとしゃっくりの音)、はっはっはっ、何ですって!私とあんたが似てるですって。・・似てたまるかいっ!早く出てゆけ! 出てゆかんとこの杖をくらわすぞ!」と、左衛門は杖を奥から持って来て、お聖人に振りかかりました。
(弟子)「なっ何をなされますかっ!何も殴らなくても!・・お聖人様、こんな家、早く出ましょう!」と言い、庇いながら外に飛び出しました。
(お兼)「申し訳ありません、申し訳ありません。お怪我はありませんか?・・どうか許してやってくださいね。すみません、すみません。」
(親鸞)「心配なさるな、私は大丈夫です。私はあの人をむしろ〔純〕な人だと思います。・・・さぁみんな、どこか別の場所を探しましょう。」と言われ、去ってゆかれました。
 しかし、近くに休める場所などあろうはずがありません。
 その夜、
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(左衛門)「うーん、うーん。」
(お兼)「お前さん、どうされましたか?そんなにうなされて。・・起きなされ!・・まぁ、それにひどい汗!」
(左衛門)「あぁっ、夢か。・・恐ろしい夢だった。」
(お兼)「どんな夢をご覧になったのですか?」
(左衛門)「うん、わしがいつものようにニワトリを絞め殺そうとすると、いつの間にか、そのニワトリの顔がわしの顔に変わっておって、わしが絞め殺されそうになっておる。・・そんな夢じゃった。」
(お兼)「あの宵に来られたお坊さん方を、叩いた罰ではありませんか?」
(左衛門)「そんな馬鹿な。・・しかし、宵の事は気になってなぁ。酔っていたとはいえ、本当に馬鹿なことをした。ひどい事をしてしまった。・・あぁっ、もう一度会ってちゃんと謝りたい。・・ひょっとすると、まだ近くに居られるかもしれん。 お前、ちょっと外を見て来てくれんか?わしは汗を拭くから。」
「はいっ」と言って戸を開けたお兼は、びっくり。
(お兼)「お前さんっ、たいへんです!」
 つづく

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