「おーーい、みんなー、山の神社へ逃げろー!
津波が来るぞー、すぐに逃げろー!」
と、浜口梧陵(ごりょう)は声を嗄らしながら、皆に声をかけて回りました。
「ホントじゃろうか?・・津波はホントに来るんじゃろうか?」 と、村人達は半信半疑ながら、取り合えず、山の上の神社へと避難することにしました。
「よーし、どうやら皆、避難したようじゃ・・」
と、静かになった村の中で、梧陵はそうつぶやきました。
その時です。
ドーン、ドーン!と、不気味な音が沖から聞こえ、又、ピカピカッと、カミナリが鳴りました。
梧陵がおそるおそる後ろを見ると、ゴーッ、ゴーッと、大津波が押し寄せて来たのです。
「しまった!逃げそびれた」と、梧陵はつぶやきました。
津波は梧陵を呑み込みました。
・・が、運よく、梧陵は大木の枝を発見し、必死でそれにつかまりました。
ザザーン、ザザーン、ザザーン・・・と、やがて、潮は引き始めました。
こうして、梧陵は命拾いしたのでした。
一方、山の上の神社では、多くの人でごった返しておりました。
(村人A)「それにしても、凄い津波じゃったなぁ・・。」
(村人B)「梧陵の旦那さんの言う事を聞かんかったら、わし等は今頃、海に流されとるとこじゃった。」
(村人C)「そういや、梧陵の旦那さんは、大丈夫だったんじゃろうか?」
その時です。
「おーーい、みんなー、わしは大丈夫だぞー!」と、梧陵はずぶぬれになりながら、石段を駆け上がって来ました。
こうして、ようやく神社で一休みする事ができた梧陵は、村人達に尋ねました。
「・・それで、皆は全員無事か?」と。
すると一人の村人が、「それがのぉー、まだ行方不明の者が何人もおりまして・・・。おそらく、海へ家ごと流されたと思われますだ。」と答えました。
それを聞いて梧陵は、
「何!では今頃、海を彷徨ってるかもしれん。・・この暗さだ、北も南もわからんで、ボーゼンとしとるかもしれん。
・・よし、わしに松明(たいまつ)を貸してくれ!
そして、わしに何人か、続いて来てくれ!」と、言って駆け出しました。 つづく
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