「お母さんっ!」と、ついに杜子春は仙人との約束を破り、一声発してしまいました。
次の瞬間、何もかもが消えてしまいました。
気がつくと、又、杜子春は元の洛陽の門の下に立っておりました。
そして目の前には例の〔鉄冠子〕という仙人がこちらを見て、一言いいました。
「仙人になる試験は、失敗じゃったな・・」と。
・・が、それを聞いて杜子春はキッパリ言いました。
「はい、私は失敗しました。しかし、いくら仙人になるとはいえ、自分の両親が、私を守る為にひどい目にあってるのを見て、黙っているわけにはいきません。・・鉄冠子様、私はそんな修行までして、仙人になるより、人間らしい正直な生き方をしとうございます」と。
それを聞いて、仙人は「おおっ悪かったな!どうせワシは肉親が痛められても、へへんと黙ってられるような正直な生き方のできない仙人どすえ~。フンッだ!」とは言わず・・・、うれしそうにこう言いました。
「・・そうか、ではワシが良いことを教えてやろう。今この夕日の下に立ってお前の影が写ったら・・、違う違う、これでは初めに戻ってしまう。エンドレス物語になってしまうわ。・・杜子春、ワシについてまいれ!」と、言うや否や、例の杖で杜子春をつれ、空高く舞い上がったかと思うと、桃の花の咲く一軒屋に降り立ちました。
「杜子春、この畑と家をお前にやろう。ここでお前は正直に暮らしてみるがよい。ではさらばじゃ・・。」と言って、そのまま仙人は空のかなたへ飛び去ったという事です。 おしまい
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