住職のつぼやき[管理用]

記事一覧

※画像をクリックすると拡大されます。

筋ジストロフィー青年との会話記録 その6

 〔病気よ、お前のおかげで わからない何かを 手に入れることができたよ・・〕 これは(28才で亡くなった)N君の『詩』の一つである。

平成8年10月14日の記録
 N君の体調が悪く、面会ができないと聞いていたのだが、O先生から「彼が是非、僕に会いたいと言っている。何か話したいことがあるらしい」と連絡を受け、T病院に向かう。
 彼はまだ個室にいる。・・が、顔色はだいぶ良いみたい。
 僕を見るなり「あっ」と喜んでくれた。・・が、「何か話したいことがあるの?」と聞いたら、「忘れてしまった」ということで、がっかり。
 それより、(彼が欠席した)先々月の『詩の朗読会』の様子を聞きたがっていたので、「みんな、君の詩に感動してたみたいやったで」と言ったら、行けなかった事を本当に残念がっていた。
 「それより、今日は僕の作った『月の神様になったうさぎ』という『紙芝居』を持って来たんやで。見てくれるか?」と言ったら、
「物語の好きな僕の後輩が大部屋に居るから、一緒に見ても良いですか?」と聞いてきたので、OKして、その(小1ぐらいの)後輩を部屋に呼んで来て、一緒に見てもらった。
 『紙芝居』終了後、その後輩の子は「僕も(うさぎのような)神様になるねん。神様になるねん」と繰り返し感想を言ってくれた。
 N君は「悲しい話やけど、優しい気持ちになれた。・・宮本さん、今度『宮沢賢治』の生涯の紙芝居を作って、ここで見せてくれませんか?」と言った。
 「わかった。いつかな・・」と言って今日は別れた。
 
平成9年1月15日の記録
 今年初めての訪問。N君は6人部屋に移っていた。
 場所は扉側に変わっていたが、前にここに居た小1の子はどうなったのだろう?・・聞けなかった。
 N君の顔色は良いようだ。
 お母さんもしばらくすると来られて、「Mっちゃん、ジュース飲むか?」と言って、ベットの上にぶら下っているガラス瓶に缶ジュースを入れ、チューブで彼の口に流し込み、味を楽しんだ後、もう一本のバキュームのチューブで、吸い取っていった。(もう、喉の器官が塞がっていて飲めないのだ)これは見た者しか解らぬ壮絶な光景だ。彼はこうして、喉の渇きを潤すのだ。
 「N君、食べることができるなら、今何が食べたい?」と聞いたら、「ケンタッキー・フライドチキン」と言った。
 昔、よくお母さんに買ってきてもらって食べたらしい。
 そういえば、彼は料理番組が好きで、よくテレビでそんな番組を見ているなぁ・・。つづく
 
 
 

上に戻る