住職のつぼやき[管理用]

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命がけの法話会

「私はここへ来るのも命がけなんです・・」とNさんは僕に言われた。
こことは『特別養護老人ホーム白寿苑』での法話会の場である。・・Nさんは、その法話会に最初から来てくださっていた女性であった。一昨年、行年96歳でお亡くなりになられた。
 法話会を始めたのが平成8年からであるから、87歳からおよそ10年間のお付き合いであった。
最初にお会いした時は、まだまだお元気で、僕によく色々な若い頃のお話をしてくださった。・・が、亡くなられる2年ほど前からお身体も弱り、足の指も悪くなって一本切断された。腕の力も無くなって、車椅子も最後は自分では動かせなくなっておられた。
 Nさんは、ベットから車椅子に移動する時、「新米の寮母さんでは非常に心もとない」とよく言っておられた。それはいつずり落ちるか分からない怖さがあったからだそうだ。床に落ちると骨折するかもしれない。骨折すると、ここを出て病院に入院しなくてはならない。その入院が長期になると施設内での《籍》が無くなる。そうなると、もうここへは帰って来れない。ここが終の棲家にはならないのだ。
「病院よりはココが良い」と皆さんよく言われる。
Nさんもそう言われた。「・・だからあまり動かないようにしていますが、法話会には行きたいのです」とおっしゃてくださっていた。つまり《命がけ》で来てくださっていたのだ。
その命がけで来てくださっていた方に対して、はたして僕は《命がけ》でお話していたのだろうか・・。そんな思いが今も僕の頭をよぎる。『なんでも継続することが一番大切なのだ・・』と言って何も工夫せず、そこに甘えていい加減な話ばかりになっていたのではなかったか・・。このような想いが今も白寿苑に来る度に、Nさんのおられた部屋を横切る度に、頭をよぎるのだ・・。
「ここへ来るのも命がけなんです」とは、『一期一会の気持ちを大切に仏法を伝えなさい・・』と、僕に今も教え続けてくださっているような、そんなNさんの言葉であったと思う。

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