「あなた、この私には、まだ年頃の子供がおりまして・・、その子たちの将来のことも考えてやらねばねぇ・・。
私が死んだら、どういうことになるか⁈・・心配で心配で・・。」と言って、薬を飲むのを断りました。
医者のふりをしている師匠は、次に彼の妻に声をかけました。
そして、薬を手渡しました。
妻は考えました。
そして、やがて涙をためて言いました。
「主人は、今日までの寿命だったのですわ。・・私が死んだらこの赤ん坊はどうなりましょう⁈誰が育ててくれるでしょう?・・この薬を飲むわけにはいけませんわ。」と。
そうこうしているうちに、薬の効き目がなくなって、弟子は身体を自由に動かせるようになりました。
彼はその時、誰一人、自分のものではない事を、はっきり悟りました。
そして、ベッドから降りて、師匠と共に家を出て行きました。
師匠は弟子に話されました。
「これで分かっただろう・・。
でもただ一人、自分のものと呼べるお方がいる。
それが、神仏だよ」と。
おしまい