この日以後、
馬之助の放蕩はピタリと止みました。
そして、一生懸命に仕事に専念するようになったのです。
由之夫婦は、その姿を見て、心から喜びました。
(由之)「これは一度、兄さんの所へ御礼を言って来ねば・・。」と、早速、手土産を持って、良寛さまの庵に向って出発しました。
そして、由之が庵近くまで来たとき、偶然、向こうからやって来る、托鉢途中の良寛さまに出会いました。
(由之)「あっ、兄さん!」
(良寛)「おおっ、由之。」
(由之)「兄さん、この前は有難うございました。
兄さんの一滴の涙が、馬之助を改心させました。」
(良寛)「いや、わしは何も出来んかった。
お前には謝らねばならん・・。
三日間、何度もわしは、馬之助に注意をしようとした。
しかし、とうとう、出来なかった。
・・聞いてくれ、由之。
実は、馬之助としゃべっておると、わしの若い頃の姿と重なってなぁ・・。
馬之助の悩みと苦しみが、よーく解るのじゃ。
それで、わしはとても説教など出来んかった。
そう思ったら、居てもたってもおられず、恥ずかしくなって、帰ろうと決心したんじゃ・・。
帰り際、せめて、馬之助に何か一言、声を掛けてやろうと思ったんじゃが、馬之助の姿を見て居ったら、切のうなって、涙しかこぼれんかった・・。
これが、真相じゃよ。」と言って、恥ずかしそうに良寛さまは、由之に謝りました。
(由之)「兄さん・・、馬之助のことでは、ご心痛をお掛けしてしまいました。・・本当に申し訳ございません。
しかし、兄さんの、・・いや、良寛さまの涙は、確実に馬之助に届きました。
本当にありがとうございました。」
と、由之はつぶやき、良寛さまの後姿に合掌したのでした。 おしまい