それは、才市さんの幼い頃、母と離婚し、僧侶となって一人暮らしをしていた父(83歳)が、病いに倒れてしまった時でした。
『父、臥せる!』の知らせを、妻からの手紙で知った才市さんは、急いで九州から帰って来ます。
そして父を自宅に引き取り、子供の時の怨みは忘れて、看病することにしたのでした。
その父の病いが重くなり、父は枕元から才市さんに向かって、小さい声で遺言を言いました。
「わしが遺言、南無阿弥陀仏」と。
そして、静かに亡くなりました。
この父の遺言は、才市さんの信心をさらに深めてゆくのでした。
その時の気持ちを、次のような詩で表わしています。
『相承(そうじょう)の知識、命日。
親の遺言、南無阿弥陀仏の御命日。
ご恩うれしや、南無阿弥陀仏。』
(相承とは、弟子が師匠から法を受け伝えられるという意味)
つづく