親鸞聖人に「恋とは何でしょうか?」と尋ねた〔唯円房(ユイエンボウ)〕は、次の日、お寺の僧たちに「ちょっと、お使いに行ってきま~す」と嘘をついて、一人〔かえで〕という名の女性に会う為、墓場までやって来ておりました。
そう、唯円は、この〔かえで〕という名の、遊郭の〔遊女〕と恋に落ちておりました。
・・実は以前、ある『人助け』の為に〔唯円〕が遊郭に足を運んだ時、そこで偶然、〔かえで〕という遊女と知り合い、その後、不思議な縁でお互いが惹かれ合うようになり、愛し合うようになっていたのでした。
しかし、唯円の《恋》は純粋なもので、この〔かえで〕という女性を心から愛し、いつか結婚したいとまで思っていたのでした。
(唯円)「あぁっ、遅いなぁ、かえでさん。・・ひょっとすると、あの遊郭の意地悪な女将に邪魔されて、外に出れないのかもしれないなぁ・・。」
その時でした。
(かえで)「唯円さま、遅くなってすみません。お待ちになりましたか?」
(唯円)「ええ、えぇ、待ちましたとも。あなたを待つ時間の何と長いこと・・。又、心配もしました。あの女将に邪魔されているのではないかと・・。」
(かえで)「はい、それは本当です。女将さんは、唯円さまと私がこっそり逢っている事を薄々気づいています。 『あの金も払わず逢引する泥棒猫め!』と言っていました。・・きっと女将さんは、お寺に私と唯円様のことを言いつけに行くはずですわ。」
(唯円)「おのれぇ、あの女将め! 私とかえでさんとは、そんな汚れた関係ではない!・・もっと清いものだ!」
(かえで)「仕方ありませんわ。私は遊女ですもの。親の借金で売られて来たのですから。・・でも私、あなたから仏様の教えをお聞きした時、本当に救われました。地獄に仏とはこの事でした。」
(唯円)「あぁ、かえでさん。あなたをその地獄から救いたい。そしてあなたと夫婦になりたい!・・いったいどうすれば、それが出来るか?!」
(かえで)「私もそれを望んでおりますが・・。はぁっ、もうこんな時間!帰らなければなりません。」
(唯円)「私は必ず、あなたを妻にします。・・お師匠さまも『恋は一筋にやれ』とおっしゃいましたし。・・それではかえでさん、又、逢いましょう!」
こうして二人は別れていきました。
この後、大変なことが〔唯円〕を待ち受けているのでした。
『唯円っ、明日はどっちだ!』・・ちょっと違うか? つづく。