(親鸞)「はい、私は地獄はあると思います。
私は人を傷つけたり、怨んだりした時、必ずこの報いは来ると思うのです。
・・しかし、同時に必ず、その地獄から逃れる方法があるとも思うのです。
・・でなければ、何の為に《仏さま》はいらっしゃるのでしょう。
私たちは『自分が悪かった』と悔い改める時、そこに《不思議な力》(そんな気持ち)を感じませんか?・・私はそれが『仏様の力』だと思うのです。『仏さまの力』が働いて下っているからだ、と思うのです。」
(左衛門)「おっしゃることは解ります。・・しかし、私の心はすぐに『たちの悪い』怒りや怨みに占領されるのです。」
(親鸞)「私も同じですよ。それが人の心です。・・心はすぐに、他からの刺激によって変化してしまいます。」
(左衛門)「お聖人さま、聞いて下さい。私は善い人間になろうと努力しました。・・しかし、それは無駄なことでした。
私は、獣や人を傷つけねば生きていけないのです。
・・それで、いつも自分を責めています。」
(親鸞)「あなたの苦しみは、すべての人間が持たねばならない苦しみです。
善くなろうとする人間は、皆あなたのように苦しむのが本当です。
実は私は、理由(ワケ)あって九歳で〔出家〕しました。
そして、二十九歳まで命掛けで、京都は比叡山で厳しい修行をしました。・・それは、善い人間になろうと思ったからです。
しかし、ダメでした。その願いは叶いませんでした。・・私は絶望しました。
それで私は〔人間は善く成りきることはできない〕と悟りました。
絶対に他の命を傷つけずに、人は(人の中では)生きてゆけないのです。・・だから、私も悪人です。」
(左衛門)「あなたが〔悪人〕だとおっしゃる理由は解りました。
・・では先ほど、あなたは〔地獄〕はあるとおっしゃいましたね?
あなたが悪人なら、あなたも〔地獄〕に落ちねばなりませんよね。
あなたは〔地獄〕が恐くないのですか?」
(親鸞)「恐いですよ!・・地獄にしかゆけぬ自分である事が解っているのですから。
・・しかし私は、悪いままでも〔別の方法〕で『極楽』へ往ける方法があると、わが師『法然(ホウネン)』聖人から教えてもらいました。」
(左衛門)「えぇっ?それはいったいどのような方法なのですか?」 つづく