この紙芝居は『ワクチン』に関するお話である。
が、現代のコロナワクチンの話では無い。
江戸時代後期の[天然痘ワクチン]のお話なのである。
それでは、決め手はワクチン!の話の始まりはじまりー。
原作[吉村昭]より
昔々、と言っても江戸時代後期。
福井藩(福井県)に、笠原良策(かさはら・りょうさく)という町医者がいた。
彼は『めっちゃ医者』と云われていた。
『めっちゃ』というのは[はちゃめちゃ]という意味ではない。
福井の方言で[あばた]を意味する。・・それは『天然痘感染症』に罹った後に出来た[吹き出物(おでき)]を意味する言葉である。
つまりこの医者は、[あばた医者]と呼ばれていたのである。
・・が、この医者に[あばた]があったからではない。
この医者は当時、一度感染したら、ひどいあばたが出来るか?又は死んでしまうか?わからないと云われた[天然痘]という病気を必死で治療しようとしたのでこう呼ばれたのである。
それでは、天然痘と戦った一人の町医者のお話を始めましょう。
笠原良策(かさはら・りょうさく)師は、福井の城下町に住む漢方の医者であった。
天保八年(1837)、良策27才。町で天然痘という感染症が流行った。
当時、この病いは恐ろしく、福井の街でも一年で千人近くが亡くなった。
又運よく治っても、顔中に[めっちゃ]こと、あばたが残り、人々はつらい思いをしなければならなかった。
今日も遺体を乗せた大八車が、たくさん火葬場まで走り抜けて行った。
特に子供たちの遺体が目立っていた。
それを見ていた医者・良策(りょうさく)は、自分は医者でありながらどうする事もできない無力さに一人打ちふさがれていた。
つづく