(仏教もの4)〔前編〕
昔むかしのインドのお話・・。
ここはマガダ国という所。一見、平和そうに見えるこの国にも、それは恐ろしい出来事が毎日のように起こっておりました。
・・今日も今日とて、一組の若い夫婦が、畑仕事に精を出していました。
二人は一生懸命に働いていたので、いつの間にか日が暮れかけていたことを忘れておりました。
「しまった!日が暮れてしまった。急いで赤ん坊をつれて帰らねば!」と夫は言いました。
・・というのも、この町には、毎晩のように恐ろしい〔鬼の女〕が現れて、赤ん坊をさらって行くからでした。その時・・、
突然、厚い霧が渦巻いてきたかと思うと、それは、あっという間に〔鬼〕の形に成って、長く伸びた手がヘビのようになって赤ん坊をむんずと掴みました。
「いやー!連れて行かないでー」と、母親の叫びを残し、鬼は風のように消えて行きました。
このように町では、毎晩一人ずつ、赤ん坊が消えていったのです。
この鬼の名は《ハーリーティ》と言いました。(尚、ダーティ・ハリーとは何の関係もありません。失礼しました・・)
この鬼の女の館は、山の奥深くにあり、この館に子供をさらって来ては、毎晩食べていたのです。
子供をさらわれた夫婦は、皆悲しみのあまり、気がおかしくなってしまいました。
見るにみかね、王様は軍隊を出し《ハーリーティ》を捉まえに行くのですが、不思議な妖術を使うこの鬼は、いつもうまく逃げてしまうのでした。そこで・・、
王様は、おシャカ様に「何とかして頂けませんでしょうか?」とご相談に行きました。
おシャカ様は「わかりました」とすぐに了承され、次の日早速、お弟子をつれて、《ハリーティ》の館へ向われました。
神通力で、彼女の館を探し出すことが出来たおシャカ様ご一行は、そっと中を覗いて見ると、なんとそこには・・、
《ハーリーティ》の子供が〔五百人〕もいて、彼女はその一人ひとりに優しく声を掛け寝かしつけていたのでした。
そして、皆が眠った頃、彼女は町に向って出て行きました。
「フーム。鬼のハーリィティにも、五百人もの子がいたのか」と、おシャカ様はそっと部屋に入り、一番小さな鬼の子をそっと抱いて連れ出したのでした。 〔後編〕につづく・・