良寛さまと馬之助は、よもやま話に、時間が経つのも忘れて談笑しました。
その様子を由之夫婦が「いつになったら、意見をしてくれるのだろう」と、二人の話題を絶えず、盗み聞きするのですが、さっぱり、良寛さまの口から、それらしき言葉を聞き取ることができません。
・・やがて、二晩が経ちました。
・・ところがです。
三日目の昼過ぎ、良寛さまは「もう、山の庵に帰る。」と、言い出したのです。
それを聞いて、弟夫婦は「なんと、頼み甲斐のない兄さんだ!」と思いましたが、仕方がありません。
みんなで、玄関まで送ることにしました。
良寛さまは、玄関口へ腰をおろして、ワラジのひもに手を触れながら言いました。
(良寛)「馬之助、すまんが、ひもを結んでくれんかのう?・・年を取ると、うつむくのが苦手でのぉ・・。」
馬之助は、上機嫌で「はいっ」と答えて、すぐに土間に降りました。
そして、良寛さまの足元にうずくまって、ひもを結びかけました。
その時です⁉
馬之助の頭に、一滴の水が落ちて来たのです。
「あっ」と、
馬之助はびっくりして、あお向きますと、良寛さまの眼には、涙が一杯たたえられているのです。
馬之助は、急にこころが打ちのめされたような気がしました。
そして、何も言わず、トボトボと帰ってゆく良寛さまの後姿に向って、馬之助は思わず、合掌をしました。
この時、馬之助は何を考えたのでしょう。 つづく
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紙芝居:「良寛さまの涙」(中編)
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