(長一)「お地蔵さまっ、私程、運の悪い男は居りません!・・それでもう死ぬより他ないのでございます。
実は、私の家は小さな『質屋』をやっておりまして、私の妻と子と弟と、どうにか慎ましく暮らしております。
質屋を経営しておりますと、〔貧乏長屋〕の住人達が、二束三文の所帯道具を持って来て、『お金に変えてくれ』とやって来るのでございます。
私は、『ダメだ、こんなオンボロな品物!』と言いたい所ですが、『お金が無ければ家を出て行かねばならない』と頼まれれば、とても断れません。
・・それで、気がつくと私の店も『火の車』になっておりました。
・・そう、私は小さい頃からついてないのです。
幼い頃、弟が池で溺れました。それを助けようとして私が風邪を引き、片方の耳が聞こえなくなりました。
又、大人になって、都会に勉強に行こうと思ったその時、父親が急死して、私が店を継がざるを得なくなりました。
・・結婚して子供も出来ましたが、貧乏で何一つ善い事がございません。
そして今日、とうとう生活費が無くなり、高利貸しにお金を借りに行ったら、その帰りに大事な『財布』を落としてしまったのです。
こうなったら、もう死ぬしかございません。
ヤケクソになって、つけで酒を飲み、死ぬ決意をしたのでございます。
自殺したら、きっと高利貸しも金の催促には来ないでしょう。
私なんか、死んだ方がまだ価値があるのです。」と、そう長一は話しました。
長一の話を聞いた(地蔵の)私は、思わず言いました。
(半人前地蔵)「君は立派な人間だ。困ってる人をたくさん助けているじゃないか。・・いいかい、自分が死ねば皆が幸せになるとでも思っているのかい?」
すると長一は、「はい、きっとそうなります。
・・そうなんだ!私なんて居ない方が良いんだ。いや、最初から私なんか生れなければ良かったんだ。
・・私なんか居なくても、世の中、何も変わりはしません。」と、言い返しました。
(半人前地蔵)「そんな事、言うもんじゃない!
そんなに自分の存在を粗末に言うのなら、・・いいだろう。では君の願いどおりに、君の〔存在〕を最初から消してやろうじゃないか!」と、私は思わず言ってしまいました。
(長一)「はぁ?」
(半人前地蔵)「はぁ、じゃない。望みどおりに、君は最初から生れなかった事にしてやると言っているんだ。
私は仏だ。不思議な力が使えるのさ。ちちんプイプイ・・。」と私は呪文を称えました。
すると・・。つづく
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紙芝居:「素晴らしき哉、人生!」 (その2)
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