それから何日も経った或る日のこと・・。
お爺さんが、クワを担いで畑に行こうとすると、〔露天の湯〕から、大勢の子供がワイワイ騒いでいる声が聞こえてきた。
見ると、そこには、子供達に交じって〔お地蔵さま〕も一緒にお湯に浸かっていなさるではないか。
「こりゃ、とんでもないこっちゃ!」と、お爺さんはたまげて呟いた。
けれど、お爺さんはすぐに声を掛けないで、道端につっ立ったまま、じっと眺めておったんじゃ。
子供たちは、皆、死んだ子供の友達じゃった。
あふれる湯壷の中では、裸の子供も、お地蔵さまも、よく見なければ、見分けもつかんぐらいじゃったんじゃ。
「おお、お地蔵さまも喜んでいなさる。笑っておいでのようじゃ」と、お爺さんの目には、確かにそう見えたんじゃ。
始めは、『なんと罰当たりな!』と思ったんじゃが、いつしかそんな事も湯けむりと共に消え失せていた。
そこでお爺さんは、ニッコリ微笑んで声を掛けた。
「お前たちゃ、お地蔵さんに、湯あみをさせておるんか?」と。
その声に、子供たちはハッとびっくりした。
・・が、お爺さんが微笑んでいるのを見て、
「うん、そうや。・・お地蔵さまが《湯浴み》をしたいと言われたんで。」と答えた。
「そうか、そうか、お地蔵さまが、そんなことを言いなさったか。」とお爺さんが言うと、
「うん、ほら、お地蔵さま、こんなにぬくぬくになっとるぞな。」と、子供たちは、お地蔵さまの肩にザブザブとお湯をかけた。
「よし、もう、そろそろ出るが良いぞや」と、お爺さんも手を貸して、「よいしょ、よいしょ」と、子供達と一緒に〔お地蔵さま〕を湯壷から引き上げ、元に台座に据え付けた。
濡れたお地蔵さまのお体は、ふっくらして、まるで人間の子供の肌のように温かじゃった。
お爺さんは家に帰ると、今日あった事をお婆さんに話した。
「まぁ、そんな事があったんですか。子供は、無邪気じゃねぇ。フッフッ・・」と、そう言って笑った。
その晩、お爺さんは寝床に入ってうつらうつらしていると、目蓋に、湯のしたたる小さな子供の姿が、はっきりと見えた。
「ああ、面白かった。 今日は、友達と一緒に湯あみをして、楽しかったわい」と、その子は呟いた。
そして、それからも、お爺さんとお婆さんは、そのお地蔵さまを《我が子》のように、大事にされたという事じゃ。 おしまい
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紙芝居:「お地蔵さまの湯あみ」 (後編)
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