『人間は皆、それぞれ欠けた弱い所を持っているものです。
夫婦というものは、その欠けた弱い所を、お互いに助け合い補いあってゆくものです。こちらが、苦しく悲しい思いをしている時は、相手も同じように苦しみ悲しんでいるに違いありません。 《山本周五郎原作 「青嵐」より》』
・・以上、余話。
それでは最終回のはじまり~。
やがて〔柳吉〕は退院し、芸者に戻っていた〔蝶子〕は、友達からお金を借りて《カフェ(今の『洋風酒場』)》を開いた。
名は相変わらず、「蝶柳」の上にサロンをつけ、『サロン蝶柳』とした。
お店には《蓄音機》をかけて、《女給(今のホステス)》をそろえ、日本料理なども出し、たちまちこの店は「有名店」となった。
〔蝶子〕もそこで《マダム》と呼ばれるようになった・・。
そんなある日、店に〔柳吉〕の娘が、父の危篤を知らせに来た。
驚いた二人は、すぐに実家に行こうとした。
・・が、〔柳吉〕は〔蝶子〕に、「おっお前は家におり。今一緒に行ったら都合が悪い!」と言った。
その言葉に気抜けした〔蝶子〕は、「お父さんの息のある内に、ワテ等二人のことを、ちゃんと認めてもらうように頼んで下さいよ!」とだけ言った。
しかし、吉報は来ず、ようやく〔柳吉〕から電話があったと思うと、「おっおっおばはんか、今、おやじは死んだ。おっおっお前は葬式には来ん方がええ。相変わらず、養子が・・・」と、ここまでしか〔蝶子〕には聞こえなかった。
「なんでや?葬式にも行ったらあかんて、そんな話があるかいな!」と頭の中に火が走り、気がついたら、店の二階にガス管を引っ張り込み、自殺しようとしていた。
・・が、間一髪、紋付を取りに来た〔柳吉〕が発見!
大騒動にはなったが、命は助かった。しかし、そのことが新聞に書かれ、〔柳吉〕は居ても立ってもおられず蒸発してしまった。
やがて一ヶ月が経ち・・、心配で堪らぬ〔蝶子〕の元に、〔柳吉〕がひょっこり現れた。
「ゆっゆくえを暗ませたのは、さっ作戦や。養子に〔蝶子〕と別れたように思わせて金を取るハラやったんや。だから、お前をわざと葬式に呼ばんかったんや」と言った。
心配で、毎日〔柳吉〕が帰って来る夢を見ていた〔蝶子〕は、その言葉を信じた。
〔柳吉〕は「どやっ、なんぞうまいもんでも食いに行こか?」と〔蝶子〕を誘った。
《法善寺》の境内の中に『めおとぜんざい』という店があり、二人はそこに行くことにした。
赤い提灯が吊るされたこの店は、しみじみ夫婦で行く店らしかった。
〔柳吉〕はスウスウと高い音をたてて、善哉をすすりながら「こっこっここの『ぜんざい』はな、注文すると、一人に二杯持って来よんねん。女(め)と夫(おっと)という意味や。なんでか言うたら、昔、何とか太夫という浄瑠璃のお師匠さんが開いた店で、一杯山盛りにするより、ちょっとずつ二杯にした方が、仰山入ってるように見える。そこをうまいこと考えよったんや」と言った。
〔蝶子〕はそれに対して「一人より、女夫(めおと)の方がエエという事でっしゃろ」とポンと返した。
それから二人は隣の《法善寺》の水掛不動さんに手を合わせた。
〔蝶子〕はちらっと〔柳吉〕を見て、「あんた、これからどないするつもりです?」と聞くと、
〔柳吉〕は明るく「まかせるがなぁっ。頼りにしてまっせ、おばはん!」と答えた。
〔蝶子〕はあきれたような顔して、くすっと笑った。
二人は《法善寺》横丁を寄り添いながら、ゆっくり歩き続けたという・・。 おしまい
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紙芝居:『夫婦善哉』 その四
コメント一覧
観念亭主 2008年11月22日(土)23時08分 編集・削除
らむね様
理解できないのが普通だと思います。
この夫婦、ハッきり言っておかしいです。〔笑〕
確かな事は〔柳吉〕はDVではない事・・かな〔笑〕
でも僕等夫婦も「今そこにある危機!」を乗り越えたりしたので、ちょっと解るような気がします。〔笑〕
関係ないけど、亡くなった僕の父も、よくうちの母親のことを「ワシのおばはん」と呼んで、名古屋出身の母は「その呼び方嫌い」と、嫌がられていました。
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らむね 2008年11月22日(土)17時31分 編集・削除
うーむ、男女の愛は深いものですね。
私にはまだ理解できないなあ・・・(笑)。