又、或る日のこと。
庄松さんは、お寺の境内で、幼い子供たちの子守をしておりました。
その日は、本堂で庄松さんの大好きなお説教があったのですが、〔子守〕は、庄松さんの大事な仕事でしたので、聴聞することができず、悔しい思いをしておりました。
又、この日に限って、子供達はなかなか泣きやみませんでした。
ホトホト困った庄松さんは、そこで思い切って、「えいっ」と、逆立ちして足をバタバタしてあやしました。
すると、ようやく子供達は面白がって泣きやんだのです。
そこへ、お説教が終ったのか、本堂からどやどやと幾人かの大人たちが出て来て、庄松さんのその姿を見て、「あれれ、庄松、そりゃいったい何の真似じゃ。はっはっはっ」と笑いました。
それを聞いて、すかさず庄松さんは、「これは、お前達が地獄へ落ちてゆく姿の真似じゃ。よく覚えておけ!」と言い放ちました。
きっと、自分だけお参りできないのが悔しかったのでしょうが、「どんなにお寺参りをしても、信心一つが無けりゃ、皆地獄行きじゃ、用心せよ!」と、言いたかったのかもしれません。
又、ある時。
『庄松は信心が篤い』という噂を聞いて、一人の住職が尋ねて来ました。そして、
(住職)「庄松さんよ、お念仏申せば、阿弥陀様はどのような人も救ってくださるというが、あれはいったい、どういう事じゃろうのう?」と尋ねました。
すると突然、庄松さんは両手を広げて立ち上がり、「それはこういう事じゃ!」と、住職に掴みかかろうとしました。
びっくりした住職は、あまりに難しい質問をしたので、庄松はおかしくなったと思い、逃げ出しました。
しかし、庄松さんは、両手を広げてどこまでも追いかけて来ます。
住職は、いよいよ気味悪くなって、必死で家の中を逃げ回りました。
・・が、とうとう追い詰められ、「庄松に羽交い絞めにされる!もはやこれまでか!」と思った時、突然、庄松さんは、
(庄松)「これが、どこに逃げても、必ずもらさず救い取ってくださるという、阿弥陀様の救いじゃ!」と叫びました。
それを聞いて、ハッとした住職は、庄松に深ぶかと頭を下げたという事です。
つづく(次回、最終回)
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記事一覧
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紙芝居:「妙好人 讃岐の庄松さん」(その6)
紙芝居:「妙好人 讃岐の庄松さん」(その5)
又、このような逸話も残っています。
或る日、かっぷくの良い〔代官〕が、お供をつれて庄屋さんの所へ泊まりにやって来ました。
その日の晩、代官はお風呂に入りました。
(代官)「おーい、誰ぞ、わしの背中をこすれ」と、叫ぶと、
「へーい」と、この日の風呂焚きに来ていた庄松さんが、風呂場に入って来ました。
そして、代官の背中をこすり始めました。
・・・が、突然、その手を止めたかと思うと、何を思ったか、
(庄松)「お代官、盗み食いしてよう肥えとるのぉ!」と言って、背中をバシッ!と叩いて出て行ったのでした。
言われなき事を云われたお代官。おそらく、度肝を抜かれたのか、その場では何も言いませんでした。
しかし、風呂から上がった代官は、「おい庄屋!すぐに、先ほどわしの背中をこすった者を呼べ!」と言ったのでした。
さぁ、大変です。
庄屋さんは青くなって代官の所へ飛んでゆき、「おっおっお代官さま!どうかお許しください。あいつは、自分の名前も忘れてしまうような馬鹿なんです。どうか、お手討ちだけは、ご勘弁を!」と、平謝りです。
しかし代官は、「いや、ダメだ。すぐに呼んで来い!」と、命じられ、皆は「だめだ。・・これはお手討ちは免れまい。」と諦め、庄松さんを呼びに行きました。
やがて庄松さんは、ケロッとした顔で部屋の中に入って来ました。
(代官)「お前はなぜ、わしを盗人呼ばわりしたのか?!」と、問いただすと、
(庄松)「わしは、いくら働いても、いつも食うか食わずの生活をしとる。しかし、お代官様は、わし等が汗水働いて作った米をゴッソリ取り上げて食い、よう肥えてふんぞりかえっておられる。・・何か背中を見とったら、『わし等の恩を忘れんで欲しい』と思い、気がついたら叩いておった。すまんことしました。」と、胸を張って堂々と云いました。
それを聞いて、代官は「うーん、お前は正直者じゃな。許してやる」と言って、その場は丸く納まったという事です。 つづく