住職のつぼやき[管理用]

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Sさんの綺麗な涙

 昨日の「特養:白寿苑」での事。
 僕は(夕方、)苑に早めに到着し、法話会の準備をしていた。
 すると、一人の職員さんが近寄って来て、おっしゃられた。
 「毎回、法話会を楽しみにされていたSさんの調子が悪いのです。・・もう90才を越えておられるので、何があってもおかしくないのですが、もうご自分ではまったく動けませんし、ずっと寝たきりです。・・何も召し上がられませんし、点滴も受け付けないようになってきました。・・でも、意識はしっかりとされているので、「法話会に行きたいわぁ」と、ずっと、かぼそい声でおっしゃっているのです。」とおっしゃった。
 それを聞いたので、僕は「じゃあ、法話会が終ってからお部屋までお見舞いに行かせてもらいますわ」と言ったが、「・・いや、もうその時には、寝ておられるかもしれないので、今から行きます。・・ちょっと今日の法話会の開始時間を遅らせてもらいます。」と言って、すぐにその職員さんとエレベーターで、四階に上がった。
 お部屋には、Sさんが休んでおられたが、職員さんがお声を掛けたら、すぐに目を覚まされ、僕の顔をじっと見て微笑まれた。
 僕は「こんばんわ。・・どうですか?・・しんどいですか?・・今日はちょっと、お見舞いに寄せてもらいましたよ。」と言うと、見る見る内にSさんの目に涙が溢れた。
 僕は、「しんどくなったり、寂しくなったりしたら、南無阿弥陀仏と称えてくださいや。仏さんが、側に来てくださいますからね。」と言って、布団を軽くめくって両手を合掌の形にさせてあげて、それを僕の両手で包んであげた。
 そしてもう一度、「苦しくなったら、南無阿弥陀仏ですよ」と言った。
 その時、Sさんはかぼそい声で「ありがとう・・ございます。ありがとう、ございます」と言われ、泣かれた。
 おそらく、心細くなっておられたのだろう。
 特養ホームの夜は、寂しい。
 ナースコールの音が響くだけだからだ。
 僕はSさんに、「又、来月お会いしましょうね」と、お別れを言って部屋を後にした。
 Sさんの目は、綺麗な涙でうるうるとされていた。
 ・・法話会終了後、後片付けをしていたら、先ほどの職員さんが、又来られて、「Sさんはあの後、安心したかのように今日はぐっすり眠られました。ありがとうございました。」とおっしゃってくださった。
 おそらく、お別れまでそう遠くはないであろう。
 しかし、その時が来るまで、できるだけSさんに寄り添える時間を持ちたい・・と思って帰路についた。

紙芝居:「因幡の源左さん」(その7〔最終回〕)

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 源左さんは、昭和五年二月二十日、八十九歳のご長寿で往生されます。
 が、そのご一生は決して平凡なものではありませんでした。
 五人の子供たちには先絶たれ、自宅は二度の火災にも遭いました。又、他人に騙されて大損をした事もありました。
 しかし、源左さんはお念仏の教えに支えられて、一家をガッチリ守り生き抜きました。
 そのお人柄から、村人たちの良き相談相手にもなり、人々に敬愛されました。
 又、夫婦喧嘩から、土地争いまで、様々な問題を見事に裁いてゆきました。
 ある時は、道行く人の荷物を持ってあげながら、お念仏のお話をされ、又ある時は、人の肩をもみながら、阿弥陀様の教えのお話をされました。
 まさにそれは、仏法を自ら信じ、人に教えて信ぜしむといった、稀有な『妙好人』の生き方でありました。
ファイル 984-2.jpg(大正時代の願正寺〔願正寺様所蔵〕)
 源左さんのお墓は、今も檀那寺の『願正寺』様の境内に、村民達とともに(共同で)納骨されております。
ファイル 984-3.jpg(源左さんのお墓:村民共同墓地)
 おしまい
ファイル 984-4.jpg(晩年の源左さん〔願正寺様所蔵〕)

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