「そして、父はついに、この現場を母に見せず、お葬式を出すことにしました。
おそらく、病弱な母が、この現場を見たら、ショックで、心の臓が停止すると思ったからでしょう。
・・が、しかし、この娘夫婦の死を聞いた母は、それから間もなく、食欲を無くし、持病も悪化し、床に就きました。
母は突然、真夜中に「おとしや!おとしや!」と、叫んだかと思うと、ガバッと半身だけ起き上がり、泣き続ける日々が続いたのです。
閣下・・、
私は昔、肉親を殺された者が、艱難辛苦を忍び、何年も掛けて、〔仇討ち〕に出たという気持ちが、解ったような気がしました。
それから間もなくして、母は、病が悪化して亡くなりました。
亡くなる少し前、母は私に言いました。
『まだ、犯人は捕まらんか?
人を殺した者が、大手を振って歩いておるとは、神も仏も無いもんか!?
・・まぁええ、あんな極悪な人間は、この世で捕まらんでも、あの世で、地獄に落ちるわ!・・地獄でひどい目にあうわ!』と。
つづく
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紙芝居:「ある抗議書」 その4
紙芝居:「ある抗議書」 その3
「・・私が家の中に入りますと、
なんとっ、そこには、姉の遺体が布団の上に、そして兄の遺体が縁側に寝かされていました。
司法大臣閣下、・・閣下は、肉親が凶悪な人間に惨殺された現場をご覧になった事がありますか?
それは、恐ろしさと悲しさが入り混じった想像もつかない光景です。
つい前日まで、私と微笑みを交わしていた、たった一人の姉が、今、首に細いヒモを巻かれて倒れているのです。
そして、兄までも・・。
私は刑事に、「犯人は強盗ですか?・・それとも遺恨ですか?」と聞くと、
「わかりません。・・しかし、おそらく強盗でしょう。最近、同じ手口の事件が、何件も起きてますので・・。」と言われました。
その時、父が到着しました。
父は、変わり果てた娘の遺体を半ば起こして、「おとし・・、おとしや・・」と何度も呼び続けました。
・・が、そんなことで、姉が甦るはずがありません。
やがて父は、「おのれ、惨いことをしやがる!」と、溢れる涙を手の甲で何度もぬぐいました。
そして、「おれは諦めるが、妻はどう思うだろう?・・」と、ポツンと一言呟いたのでした。」 つづく