住職のつぼやき[管理用]

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筋ジストロフィー青年との会話記録 その10(最終回)

 一週間に渡って書いてきた、この《記録》も今日で最後としたい。
・・というのも、前回で、〔病院訪問〕の記録は終っているからである。(誠に中途半端であるが)
 前回の〔訪問〕の後、突然、僕の人生に〔転機〕が訪れ、そして引越しする事になるからである。
 以前書いたかもしれないが、この年、「一ヶ寺の住職にならないか」というお話を恩師より急に頂き、決心。そして夏に〔入寺〕の為に引越し。そして秋から次の年かけて〔住職継職〕の手続きをし、さらにその次の年に〔落慶法要〕を行わねばならなかった。
 このように、休む暇もない〔嵐のような日々〕が続き、(距離的にも、時間的にも)病院へは行けなかったのだ。
 それでも、N君のことはずっと気になっていたので、お母さんとは手紙や電話でやり取りはしていた。
 ・・が、それから間もなくN君は28歳で亡くなる。
 考えてみたら、わずか三年のお付き合いであったが、〔生きることの意味〕や〔病気や死〕について、これほど深く考えた期間は無かったような気がする。
 
 ・・が、結局、僕は彼と逢って何をしたというのだろう。
 初めは、『《仏教の智慧》というボールを持って行き、それを彼に投げて、彼の苦悩を少しでも楽にするぞ!』と意気込んだが、それはすぐに、『そう簡単には出来ない』という事を悟った。
 それで、僕は彼からの言葉のボールを受けることだけに専念した・・つもりだ。
 (それも上手く受け取れず、後ろに逸らしてばかりいたようだが・・)

 短い期間ではあったが、・・彼は亡くなったが、彼が投げてくれた様々なボールの感触は今も僕の手(心)の中にある。(確かに残っている)
 今、その様々な〔感触〕を大事にし、(それを練りながら)僕はこれから『お寺の出前』の活動に生かしていきたいと思っている。
 ・・本当に長くなった。
 最後に今も『T支援学校の分教室歌』になっている彼の《詩》をここに載せて終りたい。
 
 《真実の翼》
 笑顔を取り戻すために 誰かが決めた勝ち負け捨てて 
 現実と優しさ握り締め 目の前のこの道歩きだそう
 いつか翼になったなら 本当の居場所を見つけ出したい
 泣いてもいいよ みんな一人じゃない 遠く離れていても 見守ってくれる人がきっといるから わかってもらえない悔しさが言葉になったなら いつか本当の居場所にたどりつけるから 
 笑顔を取り戻すために 誰かが決めた勝ち負け捨てて
 現実と優しさ握り締め 目の前のこの道歩きだそう
 歩きだそう・・・
 
  おわり
 
 
 
 
 

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