先日、大阪の或る《有名料亭》が潰れた・・・。
女将は「(のれん)に(あぐら)をかいていたのかもしれない・・」とテレビで言っていた。
有名になると、自分の実力以上の〔何か?〕の作用が勝手に働きだすのかもしれない・・・。
(あらすじ)〔文学もの4〕
昔むかしの戦国時代。
摂津の国に豪傑で知られる〔中村新兵衛〕という武士がいた。彼は力自慢でもあったが、それにもまして、彼の着飾る華やかな《鎧や兜》は他国でも大変有名になっていた。
一度合戦が起こると〔新兵衛〕は必ず一番先に飛び出し、槍を入れるので、敵兵はその姿かたちに恐れをなし、ただ逃げ惑うのみであった。
ある時、〔新兵衛〕の屋敷にひとり若武者が訪ねて来た。
彼の頼みは、《初陣》に当たり日頃より尊敬する〔新兵衛〕の《鎧と兜》を貸してもらい、手柄を立てたいという事であった。
おだてられると嬉しい。〔新兵衛〕はその頼みにOKした。
そして、やがて合戦の日を迎えた・・。
〔新兵衛〕の鎧をつけた若武者は、一番先に敵に向かって突進して行き、敵はその姿に恐れをなし、見る見る内に倒されていった。
〔新兵衛〕はそれを見ていると、「おおっ、これ程までにわしは皆から恐れられていたのか!わしもたいした者じゃのう・・」と愉快でたまらなかった。そして「そろそろ本物のこの新兵衛様が二番槍を入れてやるか!」と自分も突っ込んで行った。
・・が、いつもとは様子が違っていた。
いつもなら逃げ惑う敵が、今日に限って、突いても突いても、自分に襲いかかってくる。それはまるで、自分の鎧を着た若武者の復讐をするかのように・・・。
そして疲労の中〔新兵衛〕はようやく気がついた。「・・そうか、敵は今までわしの力を恐れていたのではなかったのだ。わしの《兜や鎧》・・そう、わしの姿をした《かたち》を恐れていたのだ・・」。
『頭の中が真っ白・・』・・『頭の中が真っ白・・』と、(女将が、いや)自分の心が、そうささやいた次の瞬間・・・、
ひとりの敵兵の槍が〔新兵衛〕の腹を鋭く貫いたのだった。 おしまい