住職のつぼやき[管理用]

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筋ジストロフィー青年との会話記録 その8

 僕がなぜ、この頃、頻繁にT病院に行けたかというと、病院近くに檀家さん宅が一件あり、一ヶ月に一回、そこのお宅にお参りさせて頂いた帰りに、病院に寄らせて頂けたからなのだ。
 たいてい訪問時間は、午後の3時ぐらいからで、一回行くと2~3時間は病院に居たと思う。時には1時間以上、病院駐車場でN君のお母さんから、色々な悩みを聞かせて頂いた。

平成9年5月15日の記録
 今日は二つの話題について話した。
 一つは〔西行法師と詩〕について。
 もう一つは〔ピラミッドと病院〕についてである。
 N君は、「自分は〔西行法師〕に似ている」といった。
 それは、「〔西行法師〕は身近の人の《死》を縁として、出家し旅に出て《歌》を作る様になった。自分も幼い頃、兄の《死》に接した事によって《詩》を作り始めたからなのだ」と言った。
 そして「〔西行法師〕も、色んな人の出会いや自然の移り変わりを通して、研ぎ澄まされた《歌》を読んだ。僕もそう有りたいと思う」と続けた。

 そして、〔病院内での自分の悩みについて〕話題は移った。
 お見舞いに来る親同士の感情のトラブル。看護師さんも〔月日〕が経つと、言葉遣いや態度も変わってしまうという話などをしてくれた。
 N君は「僕等はお世話になっている手前、(医療者に対して)何も言えないのです。・・患者あっての病院だと思うのですが、言うのを遠慮してしまう。・・僕等は《ピラミッド》の頂上に居らねばならないと思うのですが、《ピラミッド》が逆さまになっていて、僕等は一番下にいるように感じるのです。・・目の悪い人の嗅覚や聴覚が優れているように、動けない僕等は人の心の中、たとえばドクターや看護師さん達の心の中の変化が、すぐに判ってしまうのですよね」と悲しそうに話してくれた。
 今日はそんな話をした。つづく
 

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